足利の時代

 幕府を開いた三人の歴史的有名人のうち、誰にいちばん興味があるかといえば、足利尊氏。ですよ。僕は。
 家康はどうも昔から好きになれないし、そもそも戦国から江戸初期までのあの時代自体にさして興味が持てないので、家康だけでなく信長とか秀吉、信玄謙信あたりもどうでもいいといえばどうでもいい。
 源頼朝は、家康よりははるかにおもしろい。というより、源平の時代は戦国とか安土桃山なんかよりはるかにおもしろいので、その点ではいいと思う。
 でも、圧倒的に、やっぱり足利。鎌倉時代の終わりから南北朝という激動の時代、ああなんておもしろいんだろう。なんて楽しいんだろう。
 世間で人気があるのは戦国、安土桃山だけれど、なぜ僕はさほど興味が持てないのかといえば、たぶん天皇や貴族があまり絡んでこないからだろうと思う。もともとが武士登場以前の古代史が大好きな僕にとっては、武士だけの時代なんて、正直いって物足りないしつまんないのである。
 平安期に武士が登場して以降の日本の歴史は、天皇、貴族、武家という三本の軸が常に絡み合って創り上げてきた。平安の保元・平治の乱から源平合戦を経て鎌倉幕府に至る時代もそうだし、世に大人気の幕末・明治の時代だってそうだ。
 そしていうまでもなく、「太平記」の時代、すなわち鎌倉末から南北朝を経て室町にいたる14世紀の日本は、天皇と貴族と武家が、歴史上でもっとも複雑怪奇な絡みつき方をしていた時代だった。そこに僕が興味を持たないわけがないのであった。
 足利尊氏という人物もおもしろい。関東地盤なのに、三つの幕府で唯一、関東ではなく京都に幕府を開いたのもおもしろい。「鎌倉」幕府、「江戸」幕府なのに「京都」幕府じゃないのもおもしろい。天皇って何なの、貴族って何なの、武家って何なの……そういった、日本の歴史のエッセンスみたいなことも、この時代を見ているとなんとなくわかってくるし、その延長でまたさらにわからなくなる。とにかく、おもしろい。
 だけども、人気ないよね、この時代。なんでなのかなぁ。
 戦国や幕末のように、この時代のことを、酒呑みながらもっといろいろ語り合いたいなぁと思うんだけど。
 
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