日韓アナゴ事情

 ソウルの生簀海鮮料理屋。目の前の水槽で泳ぐデッカいアナゴを、同行の編集S氏が指さした。これをどうやって料理するのかと店のおねえさんに聞いてみると、最初の答えが「サシミ」。たぶんそのあとにも鍋だのなんだのいろいろ出てきそうだったのだが、S氏は「サシミ」の言葉を聞いた途端に「おぉ、刺身刺身」と即OKで、僕らはアナゴ一匹まるまる刺身で食うことになった。
 そうして出てきたのが、下の写真。光の関係で暗くかつピンクっぽくなってるけど、ほんとはもっと白い。純白に近い。
 アナゴの刺身
 湯引きしてあるアナゴが、大皿にのって大量に。そりゃデッカいアナゴなんだから、これくらいはあるわな。醤油のほか、キムチベースのソースとか、辛味噌とか、ニンニクとか、つけるものはいろいろある。
 口に入れてみる。第一印象は上品な、まさに白身の淡泊な味。悪くない。ただし……京都でハモを食えば当然ながら骨切りされて出てくる。京都人のこだわりでありすばらしい技術でもある。だけどこのアナゴ、されてない。韓国ではそんな手間がかかる細かなことはしないとしても納得できるけど、小骨がものすごい。歯が白身にサクッと入り、その奥の小骨でかならず止まる。たいして硬くはないから噛み切る。悪くはないが、けっして食べやすくはない。
 このときは大皿のヒラメも食って(11月30日参照)、まさに刺身三昧。ヒラメのほうはご飯にのっけて豪勢にヒラメ丼が最高だったけど、小骨の豊富なアナゴのほうはそうはいかない。酒のつまみとしてはよかったけれどね。なんか、虫お店の人に種類を聞いても不明だったこの虫のつまみも(写真)。
 韓国の食文化で困ったのは、食べ物の内容というより、むしろ食べ方。あちらでは皿を持って食べるのはNGで、郷に入れば郷に従えというからなるべくそうしようと気をつけていた。でも気づくと、皿を持ち上げている。だってこっちのほうが食べやすいし、そもそも持たないで食べるのは行儀が悪いって教え込まれてきたわけだからね。店に入って最初に出てくる、キムチをはじめとした何品ものつまみ類も、けっきょく食いきれないのが悲しかった(全部食うもんじゃないんだろうけど)。
 話変わって本日。うちの近所の市場内にある食堂で、穴子重(880円)をランチに食った。実にやわらかく煮てあって、アナゴだけにうな重よりはさっぱりしている。山椒はかけすぎないほうがいい。半分はかけずに、残り半分はかけて食った。ガツンとこないところが胃にやさしい。ほどよい満足感も江戸っぽい。
 江戸前アナゴの本場・羽田の海は生まれ育った町のすぐ近く。いってみれば地場産品で、もちろん好物である(きょう食ったアナゴは地物ではないと思うが)。 次回ソウルに行ったときは、刺身以外の食い方も試してみたいところ。てかやっぱり、骨切りしない刺身で食うもんじゃないよな、アナゴは。
 それはともかく、強風でマンションが揺れてるみたいなんすけど。なんだよこの南風。
 穴子重
 
 
 (16:42)