去りし者のはからい

 台風9号敦賀に上陸して以降、南下するという珍しい動きを見せた。滋賀県の湖北地方をかすめて方向転換、関ヶ原の北を抜けて濃尾平野方面に進入し、名古屋を北から睥睨して東進したが、愛知から静岡へまたぐ辺りで 熱帯低気圧に。ただし東京横浜は今後も大雨の心配あり……まとめるとこんなところだろうか。
 たしかに午後3時半頃まで、うちの辺りはとんでもなく降っていた。4時から外出の予定だったから、こりゃしこたま濡れるだろうと覚悟していた。だけどもそこからの30分で急速に上がり、家を出てくる時分にはもうぱらぱらという感じ。おかげで濡れずに駅へたどり着いたのだった。
 9が並ぶ。台風9号が行き過ぎ、あす9月9日は父の命日。おっとこれは9回目ではなく、2年前のことだから三回忌だ。
 まあ月並みな表現だが、ついきのうのことのようである。三回忌の法要は先週の土曜に済ませた。寺が三浦半島の先っぽのほうだから、法要の後は三崎の港でみんなでマグロ料理を食った。刺身焼き物からカブトまで出てくるフルコース。日頃会わない親せきたち、その中には積極的に会いたい人とさして会いたくもない人とが当然いるわけだが、ともかくも長男である僕はそうしたみんなの前に立って、挨拶をして、あとはマグロを前に賑やかな酒宴と相成った。
 挨拶は、これもこの2年で幾度もこなしたことだから、べつに慣れてしまったというか、特段何かを言うわけでもなく、多忙の中の参列を謝す程度のこと。寺はさっき書いたように三浦半島の先っぽだから、埼玉の親せきは2時間半くらいかけてわざわざきてくれるわけだし、山形の母方の親せきに至っては前日入りか、あるいは当日始発で5時間かけてやってくる者もあった。
 前日入りしたのは母の姉と妹。ひさびさの姉妹再会を楽しみにやってくる。母にしてもそれは同様だ。実は今回マグロにしたのも、その妹が昨年の一周忌の際、「せっかく三浦なんだから来年はマグロでも食べたいね」と(山形弁で)提案したのがきっかけだった。不謹慎なと思うなかれ、生者と生者がひさしぶりに出会う場を演出するのも、それはそれで先に行った者の大事な務めなのである。
 というわけで、僕も、うちの奥さんも、山形の人々との再会を楽しみにしていたのは同じ。マグロも豪勢で言うことなしだったのだが……いやひとつだけ言うことがあった。当日、僕はドライバーだったから、マグロの席で酒にあずかることができなかったのだ。
 でもまあ、家に着いてからはビールとワインをたらふく飲んだからよしとしよう。とにもかくにも、三回忌という区切りの儀式を終え、今後はしばらくこういう席で親せきたちと会う機会もない。もちろん何かしら次なるこういう機会もなるべくなら生じないほうがいい。
 だから、そうそう簡単な話だ。会いたい親せきには、この世を去った人間のはからいがなくたって、会いにいけばいい。要はそれだけの話なんだ。
 できることをすること、それが生者の務めでもある。
 
 (18:31)