南アフリカ旅日記 〜day11 VF to CT〜

<7月2日>
 ビクトリアフォールズとチョベでの2泊3日は、やっぱり都会ではないから、ワイルドなアフリカをようやく肌で感じられた。だけども時間の進み方がゆっくり一辺倒だったかというと、実はそうではなくて。なにせもう7月2日。時間の流れはどんどん早くなっていた。人間ってほんとに相対的な生き物だなって思う。
Kingdom Hotelのレストラン 朝はKingdom Hotelのレストラン(右)にて。このホテルはルームチャージのみで予約したと思っていたら、朝食も含まれていたのでありがたかった。前日はレストランが開く前にチョベへ向けて出発したから、レストランにはきてない。でもホテル側に相談したら、お弁当を用意してくれた。パン2種類、ハム2種類、チーズ、ヨーグルト、リンゴ2個、あと何かあったかもしれないけど、忘れた。それを国境へ向かう車の中で食べた。とにかく朝からおなかいっぱいになりすぎるくらいの量で、リンゴは普通に残した。2個とも。(えちさんにあげた)
 この日はちゃんとレストランで、ビュッフェ。なかなか豪華メニューで、朝っぽいサラダ系とかフルーツとかシリアルとかがちゃんと用意されている一方、肉や魚のグリル系とか、コメもの(カレー)なんかもあって、朝から腹いっぱいになる。(右の写真はレストランを中庭側から眺めたところ)
 ただ、この朝食にはえちさんはいなかった。というのも、彼は早朝からゾウの背中に乗って日の出を見るというアクティビティに参加していたから。出発が6時頃だと言っていたから、朝食は2日続けて弁当になったんだろうか。
 えちさんはエレファントツアーから帰ってきたらすぐチェックアウト。その足で空港に向かい、往路と同じく僕らのBA(ブリティッシュエアウェイズ)より30分くらい早いSA(南アフリカ航空)でヨハネスブルクに戻る。一方の僕らは、午前中けっこう時間がある。ここでしたいと思っていたことはあとふたつ。まず、ジンバブエ側のビクトリアフォールズに行く。それから例の100兆ジンバブエ・ドルを買う……これだけである。
 
 7時のレストランオープンですぐに朝食をとり、8時前には初日に歩いたホテル裏のブッシュを通ってビクトリアフォールズのゲートに向かった。ゲートの手前には、絵葉書や木彫りの動物を売る土産屋とレインコート貸し(売り?)屋を兼ねた店が並んでいる。店といっても石造りの長屋で、窓口が6軒ほど横に並んでいるという、どこかアフリカっぽい風情だった。
ブッシュの中を歩いていく
ホテル裏のブッシュの道を歩いていく
ビクトリアフォールズの入場ゲート
ビクトリアフォールズの入場ゲート(ジンバブエ側)
 ビクトリアフォールズの入場料は20USドル、あるいは200南アフリカ・ランド。さっそく中に入る。まだ早い時間なのに、すでにそれなりの観光客がいた。さすがは世界的な観光地だ。
 この日、天気は朝から曇っていたけれど(えちさんは日の出を見れなかったろうなぁと心配していた)、8時頃からは時折晴れ間ものぞき、また強い陽射しで暑くなりそうだった。ビクトリアフォールズ(ジンバブエ側)だのにゲートを入って滝へ近づくと、例によって水の飛沫が霧雨のように降りかかる。メインフォールへ近づけば、さながら豪雨のようになった。
 そもそも滝の一帯は、植生がおもしろい。何度も書いているようにこの辺りはブッシュが中心のサバンナ地帯で、基本的には茶色い大地にまばらな木々が茂っている趣である。まあ、テレビなどで見るアフリカの景色を思い浮かべればだいたい想像はつくと思う。チョベに行ってもその傾向は変わらない。赤道直下のような鬱蒼とした熱帯雨林のジャングルではないわけだ。
滝周辺の熱帯雨林 ただ、ビクトリアフォールズのすぐそばだけはちがう。滝の水しぶきが始終降り注ぐので、熱帯雨林、いわゆるレインフォレストが育っている。本来であればこの地域にはないはずの背の高い熱帯の樹木が伸び、足元にはシダ植物が生い茂っていた。水の力、恐るべしである。
 この時期は、雨季(11月から4月)が終わって乾季に入りかけている。ただし本当の乾季はまだ先で、雨季にもたらされた水はその後2ヵ月ほど多い状態が続くため、6月末、7月頭ならビクトリアフォールズの水量はまだまだ物凄い。だから水煙も相当なものだった。
滝の勢い 僕らは水しぶきの雨に濡れながら、滝に沿って歩いていく。ジンバブエ側から見るビクトリアフォールズは、雄大さはザンビア側をしのいでいる。メインフォールに接近すると、滝の視界はもはやゼロ、真っ白で何も見えなくなった。これも雨季に降った雨の影響がまだ残っているためだ。またしても地球のケタちがいの驚異を実感させられる。
メインフォール
ビクトリアフォールズのメインフォール。これ以上近づくと視界がほとんどなくなった
リビングストン1リビングストン2
ビクトリアフォールズを“発見”したイギリス人宣教師・リビングストンの銅像。左がジンバブエ側で、右がザンビア側に建っているもの
 
 2時間ほど散策したろうか。僕とむこっちはゲートを出て、ジンバブエの最後の目的である100兆ドル札探しに出かけた。
 まあ実際には、探すなどというほどたいそうなものじゃない。現に僕らは何度もお目にかかっているし、ゲートの周辺にいる長屋の土産物売りもみんな持っているだろう。問題は、値段だけだ。
 ゲート前に並ぶ土産物屋たちをつかまえて、「僕らは100兆ドル札がほしい」と最初から率直に伝え、あとはとにかく粘りの交渉が始まった。
 詳細は省くけれども、結論からいうと彼らが提示した額は、ザンビアの青年のものより高かった。最初は100兆ドル札を含む10枚を20USドルでと言ってきた。100兆ドル以外はタダのようなものだから、さすがにそれは高い。話にならないと言うと、10枚15ドルまで下がった。まだまだ高いと交渉を続け、結局、100兆ドル1枚を含む12枚で10ドル……で折り合いが付いた。
 これ以上は、どれだけ粘っても下げてくれなかった。5ドルはもちろん、7ドルでも絶対に首を縦に振らない。交渉は結局40分以上にも及んだ。ほかの札はいくらでも安くなるが、100兆ドルだけはダメ。要するに、それが100兆ドル札の現在の相場なのだろうと僕らも判断し、12枚10ドルで決断した。下がその100兆ジンバブエ・ドル札である。
 100兆ジンバブエ・ドル紙幣
 たしかに100兆ドル紙幣はすでに発行停止もされているし、土産物屋に集まってきた5人ほどの若者にも、100兆ドル紙幣を持っている人がほとんどいなかった。数自体、減り始めているのかもしれない。通貨としての価値はゼロでも、土産物としての価値はむしろ上がっているのだろう。5ドルでいいと言ったザンビアの青年は、だから仲間に殴られたんだろうか。
 それにしても、40分。この日本人たち、ずいぶんケチだなと思われたかもしれない(笑)。あとはむこっちが不要なサンダルやコート、靴下などを、50兆ドル以下の紙幣と物々交換していた。100兆ドルでなければ、やっぱりタダみたいなものなのである。僕も履いていた靴と交換なら100兆ドルをくれると言われたけれど、靴は一足しかなかったから、やめた(しかも安い靴じゃないし)。
泊まっていた部屋 ホテルに戻り、自分たちが泊まっていた部屋(右の1階の真ん中辺り)なんかの写真を撮っていたら、もう11時半。僕らは空港に向けて出発した。
 空港のカウンター前はたいそうな混雑だった。2日間のインターバルを挟んで、この日からまたW杯が再開される。えちさんもヨハネスブルクに戻って夜にはウルグアイ・ガーナ戦を見にいくと言っていたから、W杯のスケジュールに合わせて帰る人も多かったのだろう。そうそう、えちさんともカウンター付近で再会したが、残念ながらここでお別れだ。また日本で会うことを期し、別れを惜しんで、先に搭乗ゲートへ消えていくえちさんを見送った。
ビクトリアフォールズ空港の建物
ビクトリアフォールズ空港の建物。規模としては現在の石垣空港よりも小さい感じだった
 長々と並んでようやく搭乗手続きを済ませ、出発ゲートへ。待合室は下の写真のような程度で、日本でいえば離島の空港とたいして変わらないレベルだ。現在の石垣空港のほうが全然大きいと思う。ただ、待合室の奥にはいちおう酒の飲めるラウンジがあった。
 午後1時50分発(実際には20分ほど遅れたが)のBA6282便で、僕らはビクトリアフォールズ空港を離陸した。機内は満席。多くの日本人サポーターに加え、チョベで一緒にサファリをしたニューヨーカーたちも乗り込んでいた。
ビクトリアフォールズ空港の待合室
ビクトリアフォールズ空港のラウンジ
ビクトリアフォールズ空港の搭乗ゲートの待合室とラウンジ。ジンバブエともいよいよおさらば
 
 ヨハネスブルクに着陸したのは午後3時半頃。ここからケープタウンに戻る飛行機は、これまで利用したSAやBAが安い料金で取れなかったので、初めて格安航空会社のマンゴ航空を利用することにした。
 僕らが乗る169便の離陸は午後6時20分だから、けっこうな時間がある。その間に何をするか? カンタンな話。4時からクォーターファイナルのブラジル・オランダ戦が始まる。僕らは空港内のテレビで、結局最後まで観戦し、ブラジルの敗戦を見届けたのだった。前日、ブラジルが優勝すると言ったむこっち、えちさん、送迎車のドライバーさん、ご苦労様でした!(しかしアルゼンチンもすぐに……)
マンゴ航空 夕闇迫る中、オレンジ色の派手な機体のマンゴ航空で、僕らはケープタウンへ飛んだ。
 マンゴは格安会社らしくドリンクも軽食もすべて有料。客席を相当詰め込んでいるのか、座席の前後の幅もむちゃくちゃ狭かった。むこっちはすぐさま爆睡、僕もホットチョコレート(ぬるかったし粉っぽかった……)を飲んだら眠りに落ち、気がついたらもうケープタウン着陸の直前だった。
 3日ぶりにケープタウンへ戻ると、どこかほっとした気分になった。時刻はもう9時近く。空港から歩いて10分ほどのRoad Lodge Airport Cape Townにチェックインして、すでに始まっていたウルグアイ・ガーナ戦をテレビで見た。あの問題の、確信犯ハンドでウルグアイが勝ったゲームである。そういえばえちさんはヨハネスブルクでこのゲームを見ているんだなと思った。
 ちなみにこのホテルは、GrandWestと同じCity Lodgeのグループ。ただこちらは空港近くのいわゆるモーテルで、車利用の人がちょっと泊まるところだから、設備もかなりあっさりしていた。その分料金は安く、1泊500ランド=約6000円だから、1人あたり3000円。空港はタウンシップも近いためか、入り口はがっしりとしたゲートで守られていた。ここで、南ア最後の2泊を過ごすのである。(day12へ続く)
 
 (11:59)