南アフリカ旅日記 〜day10 Chobe〜

<7月1日>
 7月になった。アフリカを離れる日は7月4日だから、もうほんとに終わりが近い。ラストスパートって感じがしてきた(何をスパートするのかは別としても)。焦ってもいた(何を焦るべきかもわからずに)。
 この日はまたもや早朝起床。5時半頃に起き、シャワーを浴びて、7時ちょっと前にはフロントに出て行った。これから僕らはふたたび国境を越え、ボツワナのチョベ国立公園へサファリに行くのである。
 ボツワナは、ジンバブエザンビアと同じく海に面していない内陸国。首都はハボローネ。地図で見ると小さく感じるけれど、面積は約60万平方kmで、日本(約38万平方km)よりも全然デカイ。その国土に人口は200万人もいないから、人口密度は1平方kmあたり3人ときわめて少ない(日本は337人。ちなみに南アフリカは41人、ジンバブエは32人、ザンビアは14人だ=いずれも2008年の数値)。
 ボツワナで特筆すべきはその経済力。ダイヤモンドで潤い、人口が少ないこともあって現在の1人あたりGDPはマレーシアとほぼ同等。南アフリカよりも上だ。政局も治安も安定しているが、経済がある程度発達している分、周辺諸国よりは物価が高いという特徴もある。まあいずれにしても、日本人にはなじみが薄い国であることはまちがいなかろう。
チョベ川 チョベ国立公園はこのボツワナの北部、チョベ川(右)の流域に位置する。この辺りはジンバブエザンビアボツワナナミビアの4つの国が境を接する地帯でもある。チョベは野生動物が豊富で、ビクトリアフォールズからも近いため、滝観光とセットでサファリを楽しむ観光客が多いところだ。とりわけゾウが多く生息することで有名で、実際に滞在中、ゾウにはこれでもかというくらいに遭遇した。
 午前7時、あらかじめお願いしてあったドライバーがホテルまで僕らを迎えにきた。助手席には……なぜか彼女らしき女性が乗っていた。1時間ちょっと走ってジンバブエを出国し、車をワゴンに乗り換えてボツワナに入国する。ここから、ほかの経路でやってきた外国の人たち(ニュージーランドアメリカだった)も一緒になった。
 ボツワナのイミグレーションの建物とその周辺は、ジンバブエザンビアのそれに比べるとはるかにきれいだった。道路の舗装具合も確実にちがう。この辺りにも経済力の差が表れているのだろうか。
サファリ・ロッジからチョベ川のクルーズへ ボツワナに入国後、しばらくワゴンで走る。20分ほど走ったろうか、僕らのワゴンはチョベ・サファリ・ロッジというリゾートに到着した。ここから僕らはまず、チョベ川のクルーズに出かける。僕らは船着場から小さなボートに乗った。日本人は僕ら3名。あとはスペイン語を話す家族6人と、ニューヨークからきた男女4人のグループ、あと2人組の白人夫婦。これに英語とスペイン語のガイドが2人乗っていた。
ボートでチョベ川に繰り出す
20人ほど乗れるボートでチョベ川クルーズに繰り出した
 チョベ川に出ると、すぐにガイドの説明が始まる。この辺りは国境地帯で、対岸はもうナミビアなのだと。チョベの水鳥まずご挨拶とばかりに、何種類かの水鳥が、岸辺や川から突き出た木に止まっているのが見える。水の中に長いくちばしを突っ込んでエサを取っているのもいる。鳥にかぎらずいろいろな動物が、この川を渡って国境を行ったり来たりするらしい。
 続いて、とある木の根元に巨大なイグアナを発見。何かがいると、ボートはそっちのほうへ寄っていってくれる。乗客たちは身を乗り出して観察し、写真を撮る。さらに進むと巨大なクロコダイルや、沼地で寝そべるカバの姿が見られた。しかもワニは、ほんとすぐそこだ。すげえ。
イグアナ
ワニ2
カバ
上から、イグアナ、クロコダイル、カバ(と鳥)。ワニはすぐそこ。カバもむちゃくちゃかわいい
 
ゾウぶつかる とにかくゾウが多いことで知られるチョベ。やっぱりいた。岸にゾウの群れ。水をのみにきたそうだ。前を行くゾウが突然止まったせいなのか、あるいはほかの理由があるのかは知らないけれど、ゾウが前のゾウにぴったりくっついていた。鼻は後ろ向きに垂れ下がっているから、べつに前のゾウのにおいをかいでいるわけではないみたい。
 いろいろな動物が川を渡ると書いたが、ゾウも渡る。鼻を器用に水面から出して悠然といく。そのゾウや、ほかにバッファローが渡るところも目撃することができた。
泳ぐゾウ
鼻だけ水面から出して川を渡るゾウ
みんな写真を撮る
日本製カメラを構えて一所懸命写真を撮るのは世界共通の行動だ
 ところで、ビッグ5というのをご存じだろうか。南アフリカでは、ゾウ、バッファロー、サイ、ライオン、ヒョウの5つをビッグ5と呼び、ランドの5種類の紙幣にもデザインしている。なかでも僕が大好きなのはサイで、かつてはサイのホームページも作っていたくらいなのだけれど……残念ながら今回は遭遇できなかった。またライオンやヒョウのような肉食獣は活動時間が夕方以降のようで、やはり今回の日帰りツアーでは目撃できなかった。ただ唯一、帰り際のギリギリのところでジャッカルだけは見られた。ガイドいわく、これも運のいいことなのだそうだ。
 
 話題を戻そう。大量のゾウやバッファロー、カバ、ワニなどを見つけて、昼すぎ、僕らのボートはサファリ・ロッジに戻った。ここでビュッフェのランチを取り、午後は車でのサファリに出発。窓のないオープンなジープには、僕ら3人と、ボートでも一緒だったニューヨーカーの4人が乗り込んだ。(関係ないけど、どこからきたのと聞かれて「アメリカから」ではなく「ニューヨークから」と言ってしまうところが、妙にニューヨーカーらしいと思ってしまった)
「僕らは日本からですよ」
「おぉ……グッド・ゲームだったけど、負けてしまったね。でもうちらも同じ気持ちさ。よくわかる」
 決勝トーナメント初戦で敗退したキズを、お互い舐め合ったのだった。
かわいいインパラ 出発してすぐさま、インパラの群れに遭遇する。車のすぐ脇の茂みで、必死に(かどうかはわからないけど)草を食っていた。インパラもむちゃくちゃかわいい。肉はいまいちうまくなかったけど。
 さらにその直後、こんどはゾウのファミリーがブッシュの中に姿を現し、停車した僕らのジープの前後を挟んで移動していった。もうだいぶゾウを見るのには慣れてきていたとはいえ、車の前後を至近距離で何頭ものゾウが歩くとなれば、さすがに迫力がちがう。とんでもなくワクワクドキドキした。

僕らの車の真ん前を横断するゾウたち
 車はブッシュ地帯を走っていく。ゾウやインパラ、バッファロー、あるいは喜望峰ですでに見慣れたバブーンの家族などはいくらでも姿を現す。チョベ川のほとりで100頭に及ばんとするゾウの大群が水のみしている光景も感動的だった。時折、インパラよりも一回り大きく角も立派なクードゥーが道路を横切り、インパラによく似ているけどガイドいわく「とっても珍しい」というプクを遠くに拝むこともできた。そしてとうとう、キリンも登場した。
ゾウの大群
チョベ川の岸辺で水のみするゾウの大群。写真の奥にも延々と続いていて、その数は100をゆうに超えていただろう
キリン2
サファリの終盤、ついに姿を現したキリン。カメラ目線のキリンはほんにかわいいのう
セーブルアンテロープ
立派な角のセーブルアンテロープが道を横切る。ハイジなら「オオツノのだんな」とか呼びそうだ(あれはアルプスアイベックスだが)
 午後4時を15分ほど回った頃、サファリドライブは終了。元きた道を戻り始める。保護区を出るゲートに近づいたところで、肉食獣のジャッカルがエサを食むシーンにもなんとか遭遇できた。
 そうして僕らは、チョベを離れ、ボツワナを出国した。時刻は夕方5時頃。朝方通ったジンバブエのイミグレーションに差し掛かり、まずむこっちが入国手続きを済ませ、続いて僕のパスポートにもスタンプ。戻されたパスポートを閉じて窓口を離れようとしたら、
「あなたは30ドル払わなければダメ」と、僕だけ係官に言われた。
「ん、なぜ? 彼(とむこっちを指さす)も彼(とえちさんを指さす)も、同じダブルビザですよ」と僕は抗議する。ダブルビザがあれば、一度出国して再入国できる。ザンビアは日帰りならシングルビザでもOKなはずで、一度ザンビアへ出ても再入国にはカウントしないと聞いていた。
「そうだけど、あなただけザンビアに行ってるでしょ」
 たしかに僕のダブルビザにはザンビアから再入国時のスタンプが押してある。でもむこっちとえちさんのパスポートを見ると、彼らのダブルビザにはなぜかそのスタンプがなかった。
 からくりはこうである。ダブルビザを持っていれば一度の再入国が認められるのはまちがいない(シングルではなくダブルなんだから)。ただしダブルビザを持っている場合、シングルビザなら押されないはずのザンビアからの日帰り再入国時にスタンプが押されてしまい、それが一度の再入国とカウントされてしまう。だからボツワナからの再入国は二度目の再入国となり、また新たなシングルビザが必要になる。ただ、ザンビアからの再入国時、僕らは3人セットで窓口に行ったせいか、はたまた係官のミスなのかはわからないが、スタンプが押されたのは僕のダブルビザだけだったのだ。だから記録上、僕はザンビアに出国して再入国したことになっていて、むこっちとえちさんはその記録がない(もちろんよく見ればふたりのパスポートの別ページにもザンビア出入国スタンプは押されているわけだけれど)。
 釈然としないながらも、そこで払わないと言い張っても僕がジンバブエに再入国できないだけだし、むこっちとえちさんもザンビアに行ったんだと明かせばヘタをすると彼らも30ドルずつ払えと言われかねない。僕は仕方なく30ドルを追加で払い、あとからふたりが好意で10ドルずつ払ってくれたので、まあなんとか僕の気持ちも収まったというわけだった。
 おそらく、そうした事情を鑑みるに、ザンビア日帰りとボツワナ旅行の双方を計画しているのなら、最初のジンバブエ入国時にシングルビザをチョイスすればいいのだろう。そうすればボツワナからの再入国時にまたシングルビザ分を払えばいいわけで、ザンビア日帰りはもともとシングルビザでいいわけだから、合計60ドルで済むことになる。ヘタにダブルビザを持っていたばかりに、僕のダブルビザは再入国のスタンプを押されてしまったわけだ。
 でもちがう見方をするなら、僕らは運がよかったともいえるのかもしれない。3人ともザンビアからの再入国時にスタンプを押されていた可能性だってあったわけだから。実際、Kingdom Hotelで会ったひとり旅の日本人女性は、僕と同じ目に遭い、結局ひとりで80ドルを払わなければならなかったそうだ。面倒なことや納得のいかないことは、都合よく解釈するにかぎる。……というより、ビザ代とかなくしてくれよ、と正直思わないでもないのであった。
 
 朝、ホテルからイミグレーションまで送ってくれた車にふたたび乗り込み、6時半頃ホテルに帰着。帰りも助手席にはドライバーの彼女らしき人が乗っていて、帰るまでずっと話しまくっていた。彼女は日本のブルーのユニフォームが好きだと言っていた。理由は、
「青が好きだからよ」
 ……なるほど。
「ユニフォーム、持ってたらちょうだい」
 残念。持ってません。
「イタリアでもいいけど」
 なるほど。イタリアも青だ。ならフランスでもいいか? ……いずれにせよ持ってないが。
「どこが優勝すると思う?」とドライバー。むこっちとえちさんはブラジルと答え、僕はアルゼンチンと答えた。ドライバーもブラジル。彼女は、優勝国については答えなかった。もうイタリアも日本もいなかったしね。ブラジル、アルゼンチン、この両チームが続くクォーターファイナルで相次いで消えるとは、このときは誰もが夢にも思わなかった。
 この日の夜はホテルのレストランでビュッフェにした。ホテルだから高いだろうと思ったら、25ドルとそうでもなかった(もちろんジンバブエにしては高いけど)。「ライオン」「ザンベジ」などジンバブエのビールを飲みながらクロコダイルやカレー料理、大量のフルーツなどをほおばりつつ、この2日間とこれまでのW杯を振り返っての会話も盛り上がり、ビクトリアフォールズ2日目の夜は静かに更けていったのだった。(day11へ続く)
 
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