南アフリカ旅日記 〜day5 Cape Peninsula〜

<6月26日>
 前日はすっかりゆっくりしたので、パワー回復。この日は早朝起床して出かけようということになった。朝早く起きてどこに行くのかといえば、ケープ半島(Cape Peninsula)だ。
 ケープ半島といわれても、ピンとこないかもしれない。その先端にあるのが、あの喜望峰(Cape of Good Hope)である。ケープタウン市街地から喜望峰までは、だいたい60kmの距離がある。車なら1時間とちょっと。まあ、近い。
 よく喜望峰がアフリカ最南端だと思い込んでいる人がいるが、それはアグラス(アガラス)岬であって、喜望峰ではない。喜望峰は、正確にいうとアフリカ大陸の最南西端にある岬。実際に喜望峰に立つ看板にも、「THE MOST SOUTH-WESTERN POINT OF THE AFRICAN CONTINENT」と書いてある。ひっかけ問題でよく出題されるので、覚えておいて損はないだろうと思う。
 また、喜望峰は大西洋とインド洋を分けるポイントだともいわれる。これも国際機関の取り決めでは最南端のアグラス岬とされていて、喜望峰ではないということになる(参考までに、アグラス岬はケープ半島から直線距離で150kmほど南東にあり、ケープタウンの街からは車で3、4時間かかるそうだ)。
 でもまあいい。限られた日程で喜望峰とアグラス岬のどちらを選ぶかといえば、それは当然喜望峰になる。アグラス岬は、端っこ好きとしてはもちろん一度は訪れてみたい場所だけれど、喜望峰にはロマンというか、何物にも代えがたい憧れがある。そういうことだ。
 この日の話は6月28日の日記「喜望峰」でも書いたが、もう一度まとめることにしよう。早朝とはいっても、起きたのは6時くらいだったか。7時には出ようと話していたのに、実際にレンタカーでホテルを出発したのは8時近かったように思う。この時期のケープタウン、7時ではまだまだ暗い。なにせ日が昇るのが8時ちょっと前だから。
朝のテーブルマウンテン GrandWestから高速道路(といっても料金所がないので大きなバイパスという感じ)M7を5分ほど南下し、交差するN2で西の市内中心部方面へ。朝焼けに輝くテーブルマウンテンを正面に見ながら10分ほど走ったら、テーブルマウンテンの手前でM3に入り、世界遺産の植物園・キルステンボッシュ(カーステンボッシュ)への分かれ道や高級な雰囲気の住宅地を抜けて、ケープ半島をめざし南下する。やがてM3は突き当たるので、左、右と2度曲がってこんどはM4へ。この道が、ケープ半島の東岸をケープポイント(喜望峰を含めたアフリカ最南西端の岬一帯)まで続いているのだ。GrandWestを出て1時間も走らずに、車窓の左に海が見えてきた。
海が見えてきた この海が、なんと呼んでいいのか実は難しい。イメージ的にはインド洋と感じるけれど、前述のような事情があるため、やはり正確にはそうではないのだろう。気持ち的にはケープ半島が大西洋とインド洋の境で、半島の東に見える海はまちがいなくインド洋なんだけれども。なんとかそういうふうに変えてもらえないだろうか。
 
 その道沿いには、海辺から丘の上まで品のよい家が点在する風光明媚なサイモンズタウンや、以前は禁酒の町だったフィッシュホークなど、小ぢんまりとした美しい町々が次から次へと姿を現す。ケープタウンからサイモンズタウンまでは海際に鉄道も敷かれていて、M4の道と並走している。
サイモンズタウンへ続く鉄道 車窓に広がる光景は、意識しなければここがアフリカとは思えないほど穏やかなものだ。線路のすぐ脇はもう海だが、静かな磯や砂浜が連なっている。海藻が打ち寄せ、岩の上で海鳥たちが戯れていた。この海にはクジラがやってくるそうで、しばらく海面を眺めていたが、残念ながら見つけることはできなかった。
 サイモンズタウンはこのルートではいちばん大きな町で、小さなショップやレストラン、ゲストハウスが道沿いにいくつも発見できる。ケンタッキーのカーネルおじさんも笑っていた。サイモンズタウンを含めこの一帯の町の店には、入り口に鉄格子がはめられていなかった。やはり大都会よりははるかに平和なのだろう。
 サイモンズタウンを抜けると、もうすぐボルダーズビーチ。ケープペンギン(アフリカペンギン)の保護地として知られる海岸である。僕らはひとまず通過して喜望峰をめざし、帰りに寄ることにした。ボルダーズビーチから先、町はなくなり、ところどころで宿か別荘のような建物を見るだけになった。バブーン注意の看板反対に増えてきたのが「バブーン注意」の看板。バブーンはヒヒの一種で、けっこう凶暴らしく、看板には「バブーンは危険な野生動物。エサをやるな」と大書してあった(右はその看板の写真。撮影:とっきー)。日光のサルを思い出す。
 道は海沿いからはずれて上り始め、やがて自然保護区のゲートにたどり着く。「ケープ植物区保護地域群」として世界遺産にも登録されているこの辺りから、周囲は霧に包まれだした。ゲートで1人75ランド(約900円)の入場料を払い、さらに背の低いブッシュに囲まれた荒野を進むと、10分ほどでケープポイントの駐車場に着いた。時刻は、まだ朝の9時半を少し回ったところ。駐車場はガラガラで、土産ショップもレストランも人はほとんどいなかった。
 それより問題なのは、霧だ。ゲートを入って以降、霧はひたすら濃くなるばかり。岬の上なのに、海面はまったく望めない。「せっかくここまできたのになぁ」と、3人の胸には一様にもどかしさがよぎる。
 だけども、自然現象に文句を言っても仕方ない。出発前に朝食をとっていなかったから、ひとまずレストランで何か食べて、その間に霧が晴れる可能性に賭けようということになった。まあみんな、けっこう諦めていたけれど。
 ……ところが、1時間ほどしたら、なんと晴れてきた。雲間から薄日が差し、レストランの窓からも海の表が見えてきたのである。喜望峰が姿を現したステキだ、きっと自分の行いのおかげだ!と3人それぞれ口にしつつ、レストランを出て駐車場に戻ると、到着時は霧で真っ白だったあっちのほうにいまは喜望峰の雄姿が見えている。「天気が保っているいまのうちだ!」と、僕らは喜望峰へと続く崖上のトレイルをいそいそと歩き始めたのだった。
 はるか眼下の海に完全オープンのトレイルは、とにかく風が強い。いわゆる吹きっさらし。時に飛ばされるんじゃないかと心配になるほど猛烈な風が吹きつけてくる。崖っぷちを歩くときなど、正直ちょっと怖いくらいだった。そんなこんなで歩き続けること30分強、いよいよ喜望峰の突端へ向けた最後の上り坂。道の両脇の草むらには、巨大なリスのようにも見えるケープハイラックス(地元ではダシーと呼ばれる、イワダヌキ目の小動物)が何匹も何匹も集っては、奇妙な形状の草を食んでいた。
 そしてとうとう、僕らはたどり着いた。憧れの喜望峰の高みに。風の強さはさらに増し、岩につかまっていないと本当に飛ばされそうな気さえした。大西洋とインド洋の色が交わる(本当はちがうんだけど)という海を眺め、「ここがアフリカの先端か〜」と深呼吸をして眼下を見下ろす……すると、最南西端にいるはずの僕らの先に、高さはグッと低いがまだ岬が続いていることに気づいた。足元はるか下方には駐車場もあり、多くの車が止まっている。
 
 喜望峰の崖上から見下ろしたら、もうちょい先まで岬は続いていた
「あれ、あっちが喜望峰?」と、僕は思わず声に出す。たしかに僕らがいま立っている崖の上には、そこが喜望峰であることを示す看板などは何ひとつなかった。ちょっぴり不安になる。
「いや、おそらくあっちもこっちもひと続きの崖だから、全部合わせて喜望峰なんだろうな」と勝手に納得。でもここまできたなら、やっぱり先端まで行ってみたい。そこで僕らは崖を下りる険しい坂道をたどり、その先端まで歩いていった。
「こここそ、ほんとに喜望峰だね!」。僕らはようやく大満足。強風にさらされよろけながらも、何枚も記念写真を撮ったのだった。
 ただしそこにも「喜望峰」という看板はない。それはさらにその下、駐車場の脇にあった。そこまで下りるとまた上ってくるのにひどく骨が折れそうなので、僕らはいったんケープポイントの駐車場まで歩いて戻り、車に乗って喜望峰の麓まで向かうことにした。いつしか空はすっかり晴れ上がり、青く抜ける空から強烈な陽射しが照りつけていた。
 余談だけれど、ケープポイントの駐車場で車を発進させる際が一大事だった。ここまでレンタカーは僕とむこっちで半分ずつ運転していた。ところが帰国を翌日に控えたとっきーが「いちおう国際免許証を取ってきたから、記念に一度は運転してみたいなぁ」と頼もしく宣言したのである。まあそれもそうだろう、ならここから下の駐車場まで運転任せるよ……と言ったはいいが、結果はそうはならなかった。
 運転席に座ったとっきー、バックで車を出すのに即エンスト。エンジンをかけ直しもう一度チャレンジするもエンスト。三度目の正直でちろっと後ろに動いたものの、重いハンドルに四苦八苦しているうちまたもやエンスト。時間は昼すぎで、駐車場は朝と打って変わっての混雑、うちらが出たあとに入れようと次の車も待機している。そんな中、堂々とエンストを続けるとっきー。警備員もニヤニヤしながら近づいてくる。どうにもラチがあかないので、結局ドライバーを交代し、苦笑を背後に駐車場を出たのであった。
 甲子園予選の初戦で散る学校のように、とっきーの南ア運転体験も、ごくわずかの時間で終わりを告げた。しかも、動いた距離はわずか1、2mで……。ま、この話は内緒にしておこう(笑)。
 喜望峰下の駐車場までは5分ほど走ったろうか。案の定、「CAPE OF GOOD HOPE」と書かれた看板の周囲には、記念写真を撮るため世界中の人たちがわんさと集まっている。僕らもひとりひとりで写真を撮ったあと、近くにいたイタリア人のオジサンが「キミたちの写真撮ってあげるよ」というので、3人そろって記念写真。アフリカ大陸の先っぽに到達した感慨を存分に味わった。
 喜望峰の先端を見上げる
 先ほど上った喜望峰の先端を下から見る。このふもとに「CAPE OF GOOD HOPE」の看板があり、誰もが記念写真を撮っていた
 喜望峰下の駐車場を離れて走り出したとたん、むこっちが「あ、野ダチョウ!」と声を上げた。運転しながら見ると、車のすぐ脇を野生のダチョウが走っている。残念ながら写真には撮れなかったけれど、この目撃はちょっとした感動だった。あとで調べたら(先に調べとけって話だが)喜望峰の周囲にはダチョウがけっこういるらしい。また朝食をとったレストランでもダチョウの肉を食べられたという。ま、ダチョウ自体は日本でも食べたことがあるからいいけれども。
 続いて登場したのは、お待ちかねのバブーン。家族だろうか、道端でのんびりくつろいでいる(ように見える)。横を行く車はすべていったん停車し、長々と時間をかけて、彼らの姿を写真に収めていた。
 
 喜望峰を後にして、向かったのは朝方通過したボルダーズビーチ。ケープペンギンの生息地である。保護区に入るには入場料(20ランドだったかな)が必要で、内部は人が歩くための木道が整備されている。逆にいえば、人間はその道をはずれてはならないわけで。
 木道の周囲には、これでもかというほどのペンギンちゃんたち。群れでいるかと思えば、1羽2羽単位でもうろうろしている。親子で睦んでいるのもいる。木道のすぐそばまで平気でやってくるから、触ろうと思えば余裕で触れる(もちろん触るのはNG)。
 しかしペンギンってのはなんでこんなにかわいいんだろう。僕ら3人も、喜望峰をはるかに上回る枚数の写真を撮りまくった。6月28日の日記に何枚か載せたので、今回はアップめの写真を2枚ほど載せておこう。
 
 
 ボルダーズビーチを離れ、またもや海沿いの道を軽快に走ってGrandWestへ帰還したのは午後4時ちょっと前だった。ケープポイントで遅い朝食をとり、昼時は喜望峰を歩き回っていたので、僕らはこの日ランチを食べそこねていた。さすがにむちゃくちゃ腹が減り、夜はガッツリ肉を食おうということに。
 そうそう、この晩は早くも、とっきーにとって南ア最後の夜なのである。僕らはグリル料理屋に入り、スターターからしっかり注文した。酒はまずビール(カッスル、アムステル)から入り、そのあと「Two Oceans」の赤ワインと白ワイン。南アは物価的には日本とあまり変わらない印象だったけれど、酒、とくにワインは安い。大きめのワイングラスになみなみ注がれたグラスワインでも、1杯20ランド(約250円)するかしないかという程度だった。日本なら2杯分はありそうな量。さすがはワイン大量生産&消費国である。
 メインは、僕は250gくらいのフィレ、とっきーはサーロイン、むこっちは500gの肉の塊(笑)。むこっちはさすがに最後若干つらそうだった。サイドにチップス(いわゆるフレンチフライ)もけっこう付いてたし。そういえば4年前のドイツ大会のときは、旅の最後に寄ったアントワープ(ベルギー)のアルゼンチン料理屋で、むこっちとやっぱり大量の肉を食った。そんなことを思い出した。
 食後はGrandWestでちょっぴりカジノ。とっきーも初カジノ経験できっちり損をした(笑)。旅はまだ5日目。1日遅く合流したとっきーにとっては4日目だが、彼は翌日もう帰らなければならない。仕事があるとはいえ、もう少し長くいられたらよかったのにと、残念な気もした。
 まあ、彼にとっての南ア最終日となる翌27日も、テーブルマウンテンという大物観光が控えている。とにかく晴れてくれることを祈りつつ(晴れてないと意味ないので)、部屋に戻ってこの日から始まった決勝トーナメント1回戦のアメリカ・ガーナ戦を観戦し、この日もけっこう早く眠りについた。(day6へ続く)
 
 ケープハイラックス
 喜望峰で植物を食むケープハイラックス
 
  ケープハイラックス
 大人気のバブーン。写真撮影で渋滞が発生していた
 
 (17:28)