きょうの京都はまた暑い

 京都は最高気温35度とか。真夏ぶり返し。
 でもやっぱり、夏の京都は暑いのがいい。夏はひたすら暑くあるべき町なのだ、京都は。
 このひたすら暑い夏の京都の町を、ひたすら歩き回るのが、楽しい。
 

◆竹炭の午前

 きょうは祇園界隈を離れ、三条柳馬場*1の辺りへ。
 四条河原町からOPAの横を抜けて新京極を突っ切り、寺町通をぶらぶら歩いていたら、穂積ペペによく似たオッサンとすれ違った。……いや、よく似たというか、あれたぶん本人(笑)。なんか若い女連れて、涼しい顔して歩いてた。んー、それ以上とくに感想はない。そういえば思い出したが、きのうだかその前だかにはなべおさみによく似たオッサンとすれ違った。あれも、たぶん本人。
 寺町から蛸薬師通を西に入り、少し歩いて柳馬場通へ右折*2。ここで、おもしろそうな店を見つけた。柳馬場通に面したところに紙の雑貨作りの体験工房があって、そこの深い路地奥に「甘党喫茶 あまがえる」というのがある。なんでも竹炭珈琲というのを飲めるらしい。もちろん入ってみた。きれいな店のつくりで、まだ午前中だからか客はほかにいない。カウンターに座り、竹炭珈琲を注文。これはこの店オリジナルのコーヒーだそうだ。「甘党喫茶 あまがえる」の竹炭珈琲と竹炭アイスクリン
 マスターからいろいろと話を聞いた。竹炭珈琲は仕上げの段階で、消し炭のような見た目の(失礼!)食用竹炭をコーヒーに通す。こうすることで竹のミネラルがコーヒーに浸透し、かつ口当たりもマイルドになるのだそうだ。
「われわれ甘党ですから、甘いものを食べたあとにやわらかい苦味がほしいんですわ」
 マスターの言葉のとおり、なるほど、酸味を抑えて苦味だけが舌に通る物腰のやわらかなコーヒーに仕上がっている。
 ところで、そう、ここは甘党喫茶。メニューを見ると「竹炭アイスクリン」というのが目につく。これもマスターから説明を聞いたが、能書きよりもまず食ってみるべきなので、注文。出てきた品は、上にココナツアイスと竹炭のペーストをミックスしたものが乗り、その下をやはり竹炭を練り込んだ黒い寒天が支えている。アイスの見た目はマーブルのようなものだ。口に入れると、さわやかで、うまい。上のアイスを食べ終わったところで黒糖の蜜を寒天にかける。アイスも寒天も自家製で、甘党のこだわりを感じさせる。
「白みそアイスクリンも始めましたんで、よろしかったらどうぞ」
 せっかくだから試してもみたかったが、このあと昼食を取ろうと考えていたので、「それはまた次回に、ぜひ」ということで店を出てきた。
 ★「甘党喫茶 あまがえる」…京都市中京区柳馬場蛸薬師上ル
 

◆至福のおばんざいランチ

三条柳馬場「松富や壽いちえ」 柳馬場三条通が交差する辺りはいい感じの食べ物屋が多い。町家を使ったおばんざい屋さんやフランス料理屋など、京風な雰囲気も抜群である。きょうはそのうちの一軒、おばんざいのランチバイキングをやっている「松富や壽いちえ」にやってきた。わずか1050円で、ステキな京の昼ご飯をいただけるのである。
 実は昨晩も祇園の居酒屋で京のおばんざいを数点いただいているのだが、今朝ホテルで仕事しながらなんとはなしにmixiの京都関係コミュニティを見ていたら、この店が紹介されていた。これはよさそうだってことで、またおばんざいをいただこうとさっそく出かけてきたわけ。ああもちろん、懸案の仕事は朝の9時頃になんとか終わらせて。
 到着すると、開店の11時30分にはまだ10分ほど間がある。店の前にはおばさん2人のグループと、別のおばさん1人が待っていたが、開店時間まで待たずに店の人が招じ入れた。結局僕は待つことなくすぐに入れてもらい、坪庭に面した座敷の、床の間の脇にしつらえられた椅子席に通された。ちなみに1階は全席テーブルと椅子である。
 おばんざいというのは、まあ改めて説明するまでもないが京都の惣菜のことだ。ここでは町家風の建物の道側と庭側に客席の間があり、真ん中の間にさまざまなおばんざいとご飯、味噌汁が並べられていて、ランチタイムはバイキングだから自由に取って食べる。素材はすべて有機無添加。ご飯は玄米だし、味噌汁は「味噌汁の味を楽しんでもらうため」に具は入れないというこだわりよう。農家の方が一生懸命作った素材だから残さず食べてくださいという説明書きも、どこか微笑ましい。
 味のほうはといえば、これがとにかくうまい。ひじきや切り干し大根、おから、もやしといった定番物から、魚、茄子、揚げ、ニガウリ、豆腐、鶏肉などを使う凝った惣菜まで、どれもこれもがやさしい味をしている。大げさでなく、口に入れた瞬間にやさしさが広がるような味だ。玄米のご飯や味噌汁も、どんどんいける。具のない味噌汁はまさに味噌スープ。味もさることながら、そのおもしろさに当然のごとく2杯目をいただいてしまう。
「松富や壽いちえ」の坪庭。陽の光とのコントラストが美しかった こういったすばらしい食べ物を、町家を利用した京風情のある建物のほの暗い座敷で、家屋に切り取られた狭い空からそそぎ込む光に明るくかがやく坪庭と縁側を眺めながら、いただく。実に潤うランチタイム。このあまりの幸福を、ほとんどつたえることができないのが、もどかしい。
 存分にいただいて店を出ようとした矢先、同じ座敷に席を取っていたおばさんが「ほんましあわせやなぁ」とつぶやいた。ほんま、そのとおりやわぁ。きのうのねぎうどんといい、きょうのおばんざいランチといい、ともにお金は1000円前後なのに、なんとも良質な贅沢を味わえた気がする。いやちょっと贅沢のしすぎかもしれないと言いたくなるほどに。
 この贅沢はお金の贅沢ではなく、ココロの贅沢かな、と思った。もちろんこのココロの贅沢を支えてくれる時間の贅沢にも、深く感謝しなければならないのだが。
 ★「松富や壽いちえ」…京都市中京区柳馬場通三条下ル槌屋町87
 
 店を出て柳馬場を北に上り、すぐそこの三条通で西に折れると、また別の小さなおばんざい屋があって、サラリーマンやおばさんが4、5人並んでいた。
 京都の懐の深さを感じた。
 

◆行け、サンダーバード

 この旅のどこかで、北陸に行こうかと思っていた。
 そう決めていたというわけではなくて、漠然と、気が向いたらそうしようと思っていただけなんだけど、そしたら今朝、気が向いた。
 「松富や壽いちえ」を出たのが12時10分頃。三条を烏丸通まで歩き、烏丸御池から地下鉄に乗った。
 京都駅でみどりの窓口に行き、13時10分発のサンダーバード21号の座席をキープ。ただ、禁煙指定席がいっぱいだったので、調子に乗ってグリーン車にしてみた(笑)。これは、貧乏なくせにお金の贅沢か……。
 普通列車でのんびり行くのもいい。実際、20代の頃は各駅停車の旅が好きだった。ただ、僕はもともと腰がちょっと弱いうえに、最近の腰の状態もややイマイチ。3時間も続けて座っているとそれだけでけっこうきつくなる。そんなわけで今回も普通列車はあきらめ、特急の利用にした。
 サンダーバード21号は定刻どおり京都を出発(たぶん。チェックしてなかったw)。グリーン車の1列シート側なのでさらに快適。
 国境を越えて近江に入ると湖西線ルートを通る。車窓にはスーパーワイドな琵琶湖の湖面がけっこう近くに広がる。これは東海道線ルートではあまり味わえない醍醐味。北のほう、琵琶湖の横幅が大きなところまでいけば、ほとんど対岸の見えない海状態になる。そう、近江、つまり近つ海だ*3
 琵琶湖は、12年前の8月のちょうどいま頃の時期、クルマで2日かけて一周した。東京23区とほぼ同じ面積で、一周走るとなるとやはり広い。1日で一周することもできるんだが、そこはそれ、2日かけることで余裕も出てくる。それでも当時は会社員だったから2日で回ってしまったけれど、いまならもっとゆっくり時間をかけるだろう。
 琵琶湖と別れて北陸に入り、越前は敦賀、武生、福井、芦原温泉に停車してまもなく加賀温泉。ここを過ぎれば小松、そして金沢もすぐそこだ。 (14:53)

 

*1:さんじょうやなぎのばんば。三条通柳馬場通が交差する一帯。おしゃれな店が多く、画廊や工房もいい雰囲気を生んでいる

*2:西に向かって右折なので、すなわち“上ル”。なお“上ル”は「あがる」、“下ル”は「さがる」、“入ル”は「いる」と読む

*3:近江の由来は琵琶湖を表す「近淡海」。一方、「遠淡海」=遠つ海が浜名湖、つまり「遠江」の国である