悲しい生姜焼き定食

 夜の仕事関係の呑みでレヴィ=ストロースの話題が出た。レヴィ=ストロースといえば、「Tristes Tropiques」が有名だよね。邦題では「悲しき熱帯」とか「悲しき南回帰線」とか訳されているけれど。原題に近いといえば前者なのだろうけれど、僕的には後者のタイトルのほうが好きだったり。レヴィ=ストロース、大学のときに流行ったなぁ。文化人類学好きも多かったっけ。
 きょうは出先で仕事をしていて、時間があまりなかったのもあって昼は手近な、踏み込む前に若干のためらいと不安を覚えさせる店構えの定食屋に入った。1時を回っていたけれども中は混んでいて、僕は後ろが他の客の背中でキチキチの狭い席に通された。そして、カゼの兆候もあったので、栄養をつけようと生姜焼き定食を頼んだ。
 これがたぶん失敗だった。食の耐性がむちゃくちゃ広くて、たいていのものはうまいと思って食える人間なのだけれど、きょうの生姜焼きだけはいただけなかった。なにせ、外は完全に冷めていて、中は冷たい部分すらあるんだもの。
 ほんとなら冷てぇからあったかいの持ってきなとか、こんなのいらねぇ帰るよって店を飛び出るとか、そんくらいのことはしてしかるべき悪処遇。だけどもそのときの僕は悲しいくらいに腹が減っていて、不満たらたらながらも最後まで食っちまった。それがまた、異様に悲しい。
 暖かい南回帰線の島々なら、冷たい料理もさほど悲しさを感じずに、いやむしろこれ幸いとばかりに楽しい楽しいと食えたのだろうかな。レヴィ=ストロースさん、教えてください。
 
 (22:57)