ひさかたぶりのビーフカツレツ

 トンカツはともかく、ビーフカツレツなんて日頃はあんまり食べないよね。まあよく食べるって人ももちろんいるんだろうけど、僕の場合はめったにない。だいたいトンカツだって、(大好きだけど)そうそうしょっちゅう食べるもんでもない。やっぱこの歳になると、大量の油モノはきつかったり、カロリーのことも気にしたり……と、いろんな条件に左右される食いもののひとつなのであった。
 なんだけども先日、仕事関係の人と呑んでいるときに、神田神保町の「かの矢」ってトンカツ屋がうまいよと、しかもそこのビーフカツレツは一度食べておいたほうがいいよと、しかもその店は年内で閉店になっちゃうよと、そんな話を吹き込まれた。なので、毎月恒例の出張仕事で神田近辺に出没しているこの機会に、食ってみた。
 訪れたのは午前11時半頃。店内は10席強のカウンターのみ。その半分以上はすでに埋まっていた。客層はおじさんクラスのサラリーマンがほとんど。ロースカツも食べたかったんだが今回はビーフカツレツ定食(750円)を頼んでみた。
神田・かの矢のビーフカツレツ
 「ビーフカツレツ」とそのものズバリの名がついたものを前回食べたのは、もう何年も(ヘタをすると5年以上も)前のことだろうと思う。ただビーフカツレツ的なものであれば、ドイツ料理屋に行けばシュニッツェルを食べる機会は最近でもまあまあある。
 そんなに待たずに出てきた。かじった。普通においしい。おいしすぎることはないけども、文字どおり普通においしい。「普通に」だと消極的に聞こえるなら、安心できるおいしさというべきか。
 ただしビーフカツレツは、だいたい最初のひと切れふた切れはいいんだが、そのあとは「やっぱり油っこいな〜」の感想が残るのが常。ドイツ料理屋で食うシュニッツェルであればドイツビールがお供だし、ひとりで食べきるわけではなく何人もでつまみとして突っつくからいいとしよう。でも定食屋のビーフカツレツは、自分専用。しかもたいてい、量が多い。最初はもちろんおいしいんだけども、途中からは「んー、食い疲れた」となってしまう。わかってたんだけど今回もやっぱりそうだった。豚のカツでは経験したことのない感情が、牛のカツではなぜか浮かんでくる。正直いうと、けっこう飽きるんだよね。言うまでもなく、これは店が悪いんじゃなくて僕が悪い。
 もちろん普通に安心においしかったから、最後まで食べた。キャベツ山盛り、ご飯も山盛りで、超満腹になった。今度は豚のほう、ロースカツを食べてみたいなぁと思ったが、12月29日で閉店なんだった。この店、常連さんが多いらしく、年内閉店を残念がる客の姿も見られた。閉店の理由は、店を営むじいさん曰く「歳だからね、もう定年だよ」とのこと。僕は初めて行ったわけだけど、愛される店が消えていくのはやっぱりさみしいことだな。
神田神保町のとんかつ屋「かの矢」 ところで「かの矢」というこの店名、由来は何かというと、どうやら苗字らしい。店内に火元責任者の名前として「彼ノ矢」って書いてあったし、そういえばこの店が入っているビルの名前も「彼ノ矢ビル」だった。古くから神田に住んでいるのかな。それにしても珍しい苗字だね。うらやましい。
 
 (19:55)