ジグザグひなまつり

 春の初めは三寒四温……とはいうけれど、あれは寒い日が3日続いたあとに4日続けて暖かい、という気候パターンを表したもの。だからここ数日の、きのう暖かくて、きょう寒くて、あしたまた暖かいというのは、この表現にはちょっと当てはまらない。
 春の初め、季節の変わり目の三寒四温でもカラダには十分負担がかかる。それが一日一日のジグザグでは……簡単に想像できるところであって。
 きょうはひなまつり。もう終わっちゃうけど。兄弟が男だけだったから、自分の家の中に雛壇が飾ってあるのを実は見たことがない(人の家のはある)。
 その代わり、五月はけっこう立派なのを飾ってた。カブトをかぶったら、案外重かったことをよく覚えてる。
 縁側にはばあさんが座ってて、外には満開のソメイヨシノの巨木が一本。その下には柴犬の飼い犬。幼い頃、何度も何度も何度も何度も見た光景のような気がするけれど、幼い頃というのはそんなに長い期間ではないし、しかも五月飾りのときとなれば日数も限られてくる。だから実際にはそれほど頻繁に見た光景ではないんだろう。ましてや五月にはソメイヨシノは咲いていない。満開のソメイヨシノは、僕のこの記憶に、いつどういったきっかけで加わったものなのか。
 それは幼時という総体における春を象徴する、一個の表象なのかもしれないね。
 もう戻れないからこそ、その表象のゆかしさは、淡い一方で、力強い。
 
 (23:59)