純情きらり

 昨年度上期のNHK連続テレビ小説純情きらり」は、さわやかで、じんと沁み入る秀作だった。よく泣いた。登場人物がではなくて、僕が(笑)。涙が出た日は数えきれない。
 毎朝が楽しみで、旅のときも録画を仕掛けて出かけた。那覇のよく行く食堂の小さなテレビや、駅、民宿、ホテル、友達の家で見たこともあった。
 一日も欠かさずに見たのは、いつ以来だろうか。このドラマが始まる当時もたしか書いたけれど、朝の連続テレビ小説は、やっぱり戦争が絡んでくるものがいい。「いい」という言い方も変か。ともかく、とりわけこの時代、先の大戦が遠くなり、8月など限られた時期を除けば戦争に関わるドラマもあまり放送されないから、逆に朝の連続テレビ小説には、それに触れる義務のようなものがあるんじゃないかと思っている。
 さて、ひさびさに昭和前期から大戦の時代が描かれた「純情きらり」。宮崎あおいさんが主役・有森桜子を演じた。この作品の舞台となったのが、愛知県の岡崎市。岡崎は電車でも自動車でも通過することは多いけれど、街自体には10年以上前に2度寄ったきり。今回、例年より安い青春18きっぷを活用する旅で、翌日はどうしようかと18日の晩に考えたとき、「純情きらり」をきっかけとしてこの街へ行ってみることにした。
 
 岡崎といえば、徳川家康、そして八丁味噌。家康が生まれたのが岡崎城で、また八丁味噌は名古屋のものだと思っている人が多いようだけれどここ岡崎のものである。岡崎城から八丁(約870m)のところに昔、八丁村という土地があって、そこで造られる味噌を八丁味噌と呼んだのが名前の由来。「純情きらり」でも、初回オープニングのナレーションでこのことに触れている。話の舞台のひとつも、桜子の幼なじみの八丁味噌造り商家だ。
 岡崎は東海道で最大級の宿場・岡崎宿があったことでも知られる。曲がり角がたくさんあり、“二十七曲”とも称された。宿場内の旧東海道をたどるルートは、あっちへ曲がり、こっちへ曲がりと、なかなか大変なものである。
 
 きのう朝7時頃に京都の宿を出立。六角堂で軽く願掛けをしてから京都駅に向かい、米原行きの新快速に乗った。米原で大垣行きに乗り換え、きのうも書いたように雪の伊吹山を眺めて大垣に到着。ここでまたJRを乗り継いで、午前11時ちょっと前に岡崎へ着いた。
 岡崎は、実のところJRを使うとやや不便な街である。JRの岡崎駅は市街地からかなり離れた位置にあって、中心部にあたる名鉄東岡崎駅までは歩くと1時間近くかかる。駅の周りにも、たいした街はない。もちろんそれは知っていたのだけれど、青春18きっぷを使うとなればそう易々と名鉄に乗るのもどうかと思い、JRで岡崎駅に到着した。
 前の晩に楽天で探したホテルに荷物を置いて、市内散策に出発。「純情きらり」の撮影にも使われた六所神社がホテルのそばだったので、まずはここから訪れた。街の中心部にあるにもかかわらず、さわさわと風の音が聞こえる心地よい神社だった。神社の入り口と社殿の前には“連続テレビ小説純情きらり」ロケ地”と掲げられていた。
 六所神社を発つともう昼時。東岡崎駅近くの「地久庵」でさっそくご当地名物八丁味噌を使った味噌煮込みうどんをいただいた。強いコシの手打のうどんといっぱいのネギが、濃い八丁味噌によく合ってうまかった。
 昼食後は、“二十七曲”の岡崎宿を東の端(江戸側)から西の端(京側)まで歩くことに。風は強く冷たかったけど、日向では陽射しがポカポカと暖かく、運動も兼ねて速足で歩いたのでけっこう汗をかいた。おまけに、大きな岡崎宿の曲がりくねった旧東海道は距離もそれなりにあって、きちんと測ってはいないけれども4km近くあるんではなかろうか、なかなかのいい運動になった。
「純情きらり」ロケ地 途中、旧東海道からはずれて岡崎城岡崎公園)へ。さすがに、至るところに三つ葉葵の御紋がある。天守閣に上ったあと、「純情きらり」でもよく登場した天守閣そばの河原でしばしくつろいだ。
 岡崎公園を離れ、岡崎宿でいちばん西の端の矢作橋手前にある旧八丁村(現八帖町)方面へ。ここで、現存する2軒の八丁味噌工場、「まるや」と「カクキュー」を両方見学した。
岡崎八丁味噌ラガー 2軒とも、やはり「純情きらり」の撮影で使われている。近くには宮崎あおいさんをはじめ出演者たちの手形が設置されていた。「カクキュー」ではその名も「岡崎八丁味噌ラガー」ビールをゴクリ。つまみは、八丁味噌を使ったまんじゅうやういろう、カステラ、プリッツなどの試食品(笑)。けっこうつまんだ(ちゃんと土産も買ったのでご安心を)。
 
 夕方5時すぎに宿へいったん戻り、7時半頃、岡崎に住むやまさんと合流して、11時まで呑み。三河鶏や名古屋コーチンの串をつまみに、三河の地酒「徳川家康」などを楽しんだ。岡崎を満喫した一日だった。
 
余談1:宿泊した「グリーンホテルリッチ徳川園」は東岡崎駅から歩いて10分弱という距離にもかかわらず、周囲には自然科学研究機構などの研究施設が並ぶ小高い丘の上にあって、静かでよかった。ただし、かなり変わったホテルで、廊下には象などさまざまな動物や人物をかたどった原住民系(?)の置物があふれ、部屋の中にも大きな絵や壺が飾ってあった。ここの主人が世界で集めたそうだが、やや異様で、でもそれがとてもおもしろい。
 
余談2:僕はべつに宮崎あおいさんのファンというわけではありません(笑)。
 
 (12:25)