最高の朝食

 今朝、僕は日本でいちばん贅沢な朝食をとった。
 午前6時30分、羽田発伊丹行き。風が強く、空気も澄んでいたため、すでにターミナルの窓や滑走路上の機内からも、富士に箱根、海越しに低い房総の山並みはいうまでもなく、北に遠く筑波山まで見渡せた。筑波は上空に上がるとよく見えるけれど、標高がないので、羽田から霞みなくくっきりと見えるのは珍しい。
 そんなような状況だから、飛び立つと眼下には地図どおりの東京や横浜の姿。多摩川が朝日に照らされて浮かび上がり、きらめきながら奥多摩の奥のほうまで延びていった。
 関東平野が一望できて、視界の果てにはアルプスや上信越国境の雪を頂いた山々が連なっていた。
 厚木基地と朝の光に輝く相模川を見下ろす頃になると、離陸直後のシートベルト着用サインが消え、僕は羽田で買った空弁の「みち子がお届けする ふぐ寿司」を広げた。「みち子」ものでは若狭の浜焼き鯖寿司が定番で、僕も羽田を飛ぶ際に買うことが多い。このふぐ寿司は、初めてだ。
 ひと口目を口に運び始めたちょうどそのとき、窓の下に、昇る朝日の澄んだ光に白くきらめく富士山が迫ってきた。もう言葉にできない美しさ、神々しさ。なんだかんだと年に20回前後は飛行機に乗っていて、こうして富士山を間近に見下ろすこともよくあるけれど、ここまで美しい富士山というのもそうそう見られるものではない。
 日本最高の景色を眺めながら、最高に贅沢な朝食を楽しんだ。
 
 その後もしばし雲ひとつない天気で、濃尾平野知多半島、伊勢湾、セントレアとすべてクリアに見渡せる。伊勢湾を越えたところで少々雲が出てきたが、奈良の盆地に入るとまた晴れて、古墳やら平城宮跡やらまでがよく見えた。生駒のすぐ上を抜け、飛行機は定刻どおり7時40分に伊丹着。8時5分発のバスに乗って、まもなく京都へ着く。
 
 (8:42)