旅の終わり

 いよいよ、旅の終わりである。
 あっという間に過ぎ去った日々だった。けれどまあ、どこかで帰らなければならない。
 それに、新しい旅をまたはじめるためにも、いったんは、帰らなければならないし。
 まあ、そういうことだ。
 
 旅の終わりということを考えたとき、ルーベンスが浮かんできた。
 今回はアムステルダムのイン・アウトだから、最後はまたアムステルダムに戻らなければならない。ドイツからアムステルダムへ鉄道で向かうルートはいくつかあり、いちばん早いのはケルンから(2時間半ほど)だけれど、ダイレクトにアムステルダムへ戻ってもつまらない、せっかくだからどこかに寄っていきたい……ということで、きのう書いたようにザールブリュッケンからルクセンブルクに入り、さらにベルギーへ抜けてブリュッセルを経由、ベルギー北部のアントワープにやってきた。
アントワープ・ノートルダム大聖堂 アントワープといえば、そう、日本人にとっては何よりまずあの教会である。「フランダースの犬」でネロとパトラッシュが昇天した、あの場所。ルーベンスの「キリストの降架」や、天使の絵。ノートルダム大聖堂に、きのうの夕方行ってきた。
 ネロとパトラッシュの話は別にしても、カテドラルはやはりすばらしい。肌に触れる堂内の空気が気持ちを落ち着け、そのあとであたたかく静かに昂揚させる。そして、ルーベンスの絵の前に立ったときの、半ば震えるようなあの感覚、あれはいったい何なのだろう。
 例によって、夕方5時からは街の広場のトルコ料理、夜9時からはアルゼンチン料理屋でそれぞれブラジル‐ガーナ、フランス‐スペイン戦を見た。こうやって飲み屋やレストランのテレビで見ているだけでも、ヨーロッパでフットボールを見ているのだという実感を強烈に覚える。日本で見ているときの何倍も楽しい。
 
 旅の最後の夜はこうして過ぎ、明けて28日、日本への帰国便に乗る日。いまアムステルダムスキポール空港に向かう列車の中で、ちょうどロッテルダム中央駅に停車している。先ほどフェイエノールトの本拠地も見えた。
 あと45分ほどで空港駅に着く。出発はこちら時間の午後2時、日本着は日本時間の29日午後2時過ぎ。
 
 (オランダ時間28日10:41)