女神のキス

 荒川さん。当然といえば当然だけれど、世界のマスコミの寵児となっている。
 日本だけじゃない、現地イタリアも、そしてニューヨークも、新聞の一面には荒川さんの姿。フィギュアスケートの女子シングルというのは、やはり冬季オリンピックの華なのである。驚いたのは、中国の新華社までがこの金メダルを“アジア初”として報じたことだ。
 それにしても、この26時間ほどのあいだに、いったい何社のインタビューを受けたのだろう。きのうの睡眠時間はさすがに30分程度とか。まあしかたないか。
 しかし大変だなぁ、ほんとに。きのうも出ずっぱり、きょうも出ずっぱり。ゴールドメダリストになると、いろんなことが大変だ。
 
 その間に、エキシビションで舞った。日本時間の今朝のことだ。
 また魅了された。きのう僕は「氷の上の水の花火」と表現したけれど、銀盤の上に湧き出し流れる水のような、しなやかで、なめらかで、のびやかで、おおらかで、優雅で、神々しくさえあって、そして時にエロティシズムも感じさせる美しさに、震えた。
 本番よりもさらに余裕のスケーティング。イナバウアーの時間も長かった。
 きのうからずっと、心臓がドキドキしっぱなし。こりゃカラダによくないわ(笑)。
 
 「トリノのオリンピックの女神は、荒川静香にキスをしました」。
 金メダルが決まった瞬間のNHK・刈屋アナウンサーの言葉が“名言”として取り上げられている。
 今回の言葉は、たしかにハマっていた。絶叫ではなく、控えめに言ったところにも好感が持てた。
 過剰演出で盛り上げようとしてもダメ。スポーツ中継の言葉にはやっぱり、時と流れ、勢いと静止、場の雰囲気、それらすべてを織り込んだタイミングというものがある。それに見事に合ったとき、本当に強い力を持った名実況となり、ステキな感動として、見る者の胸に響く。
 刈屋さんはこれまでにも、オリンピックで名言を残してきた。これからも、場に合ったナチュラルに感動的な言葉を、伝えてほしい。
 もちろんスポーツ中継はオリンピックだけじゃない。日頃のさまざまなスポーツも、競馬だってそう。スポーツ中継のアナウンサーは、まちがいなく、表現者である。
 
 (9:54)