人の親

 遅ればせながら、数日前の出来事でも。
 
 さやこ殿、こうしてようやく日本国の一般の戸籍を得、生まれて初めて一般日本人が持つ苗字なるものを持った。
 
 ニュース番組でもワイドショーでも、強く報道されているのは天皇の「人の親」としての側面、そして天皇家の「親子」の関係だった。
 「陛下もやっぱり人の親なんですね」「両陛下と紀宮さまの親子の関係にジーンときました」
 ……当たり前じゃん。まるで彼らが普通の人間ではないかのような描き方をしているけれど、天皇も元紀宮も、われわれと同じ普通の人間なんだから。人の親子なんだから。ただの普通の人間を、日本国憲法が普通の人間と認めず、つまりわれわれのほうが彼らのことを“特殊扱い”、すなわち差別的に待遇しているだけなのだから。“すべての人間は平等である”はずの民主憲法の、最大の欠点であるわけで。
 生まれながらに皇族になるとか、僕は絶対にイヤだ。天皇も、本当は本当に(社会的に)普通の人になりたいのかもなあと、勝手に想像してみる。たまたまあんな家に生まれてきちゃって、なあ。かわいそう……と、僕は勝手にそう思う。
 
 天皇家の言い伝えで、われわれ一般の人間にはまだ明らかにされていないこと、明らかにできないことってたくさんあるのではないかと、僕は考えている。そういう話を、天皇の口からぜひ聞いてみたいなあ。
 天孫降臨伝説の実態とか、“高天原”は本当はどこなのかとか、天照大神スサノオの正体とか、古代天皇の実像とか、伊勢神宮出雲大社の謎とか、あるいはもしかしたら邪馬台国の場所とか、いろんな歴史の事実がわれわれには明らかにされないところに、天皇家の門外不出の秘史として眠っているのかもしれないと、これも僕は勝手に推測してみる。
 もちろん彼にとっては“お家の事情”ですから、他人には話せないこともあると思うし、そういうところは突っ込まないけど、それはそれとして、一度は天皇という人と酒を酌み交わしながらお話をしてみたいと、まあムリなことではあるんだろうけどムリはムリとして、漠然とした希望として僕は抱いている。
 
 
 
 竹橋の某ビルへ、毎月恒例の出張仕事にきている。
 目の前に広がる皇居の緑。本格的な冬の入り口のやわらかい陽射しが降りそそいでいて、とても気持ちがよさそうだ。
 最近入っていないので、ゆっくり散歩したい誘惑に駆られるけれど、きょうはちょいと時間がない。
 というより、金曜日はそもそも開園していなかったかな。
 
 (9:54)
    皇居と呼ばれる森