くわっちーさびら

 この1ヶ月は、なんだかむしょうに仕事がつらかった。
 べつに、いつもの月にくらべて量が多かったわけではないし、質的に難しい仕事ばかりだったということでもない。むしろ全然普通、ありえないくらいに普通な仕事ばっかだったのに、とにかくつらくて、たとえば日頃なら2、3時間で終わりそうな原稿が7、8時間、いやひどい場合には翌日持ち越しぐらいの時間を費やしたりした。
 自分で自分が呆れるほどに、仕事に関しては集中力を欠いた1ヶ月だった。
 理由は、半分わかっている気もするし、まったくわかっていない気もする。クジラというのは誰もが知っている動物だけれど、クジラの生態はまだ科学者にもほとんど知られていないのだという。……そういう感覚にいくらか近い気がすると思って実際に文字にしてみたら、たぶん全然そういうことじゃないんだと気づいた。
 むしろ、なんというか、そういうことじゃなく、クジラにたとえるならば、僕はクジラに生まれてきていたとしたら、いまこうして陸上でもがいている状況を、クジラの仲間たちにどう説明したかということだ。シロナガスクジラは陸上ではきっと自分の重さで自壊する。僕はまあそこまで大きくも重くもないくせに、陸上に上がったら潰れるにちがいないと勝手に考えていつまでも海の中ばかりにいる。だって……海の中は、とても、とっても、過ごしやすいから。
 だけれども陸に上がってみれば、それはそれで案外、ステキなことになるかもしれない。羽田空港でいつも万世の万かつサンドや崎陽軒シウマイ弁当ばかり買い込んで飛行機に乗っていた人がいつもの倍近い値段の高いお弁当を買ってみたら、もしかして人生がちょっとだけ変わるかもしれないように。
 そう、そういうことだ。いつも、いつもと同じだなんて、つまらない。もちろんいつもと違うことをしたときには、やっぱり自分自身の重さで潰れてしまったり、あるいはその反対で、自分自身の軽さが存在の平衡感覚を崩し、その結果としてやはり同じように僕は潰れてしまうかもしれない。
 
 ……などとワケわからんことをだらだらと考えていたら、那覇空港到着。
 乗り継ぎの与論行き、遅延中。腹へった。そばでも食うか。くわっちーさびら。
 
 (12:12)