小さくひと言

 違和感。
 テレビでは盛んに「忘れてはいけない」とか言っている。
 
 忘れたい人もいる。
 忘れようと思っても忘れられない人もいる。
 忘れたくない人もいる。
 忘れないと思っても忘れる人もいる。
 
 いいんじゃないかなぁ、それで。
 何々しなくちゃいけないとか、何々してはいけないとか、
 自分としては、そういうことではないとは思うけれど。
 あくまで、自分としては。もちろん、人それぞれ。
 
 人間と自然のつきあい方。
 それ以下ではなく、それ以上でもない。
 そういうことでいいんじゃないかな、と、僕は思う。
 
 まあ、ひとつだけ言えるとしたら、
 何万人何十万人死んだから忘れちゃいけないとか、
 一人しか死ななかったから忘れてもいいとか、
 そういうことじゃないよな。
 
 何万人が死んだって、一人しか死ななくたって、大切な一人を失った人がいる。
 大切な人を一人も失わなくたって、大切な何かを失った人がいる。
 
 一人しか死ななかった天災を、僕はたくさん忘れている。
 そのことを、僕は残念だとは思うけれど、でも、それはそれでしかたない。
 だから同じように、何万人の命が失われた天災も、
 忘れる・忘れないとはちがう考え方で、僕は考えたい。
 
 残るものは残る。大切なものも残るし、後悔も残る。
 消えるものは消える。大切なものも消えるし、
 覚えていてはつらすぎることも消えるときには消える。
 忘れるものは忘れる。忘れないものは忘れない。
 そこには何々しなくちゃいけないとか、何々してはいけないとか、
 そういうことはないんだと、やっぱり僕は、思う。
 でもいろんな人がいて、いろんな考え方があり、
 いろんな自然があって、基本的に自然は人間に厳しい。
 3月11日。
 
 (10:12)