一冊
実家で物置をつぶすというので、整理してきた。子どもの頃から読んでいたさまざまな本はもちろん、大学のとき卒論を書くのに使った資料とか、生まれて初めて手にした運転免許証(なぜあるんだ?)、高校の生徒証、などなど、などなどが、ところどころネズミの糞に侵されながらも、ザックザックと見つかった。
フランス語の書籍もたくさん掘り起こされた。大学はいちおう仏文だったからなぁ。卒論で扱ったエリュアールや、ネルヴァル、ヴァレリー、ブルトン、バタイユ、ル・クレジオ、マンディアルグ、カミュ、サガン、モーパッサン、そしてユゴーのレ・ミゼラブル……なにもかもみな懐かしい、と沖田十三の臨終のときのような気分にもなる。
酒の呑みの席などで時折文学の話になると、いままでの人生でいちばん好きな小説は何?という問いがよく出される。僕はかつてはだいたい答えに迷っていたのだけれど、いつの頃からか、「レ・ミゼラブル」と即答するようになっていた。
いま公開中の映画、素晴らしかった。見始めた直後から、これはまた見たいと思ってしまうような。
だけども、ユゴーの原作はもっともっと素晴らしい。いちばん好きな小説、というよりは、もしかしたらこれは僕が死ぬまでに一冊、こういうものを書きたい、これを書けたら本望だ……そんな作品なのかもしれない。
ちなみに、ほかにも「死ぬまでに一冊、こういうものを書きたい、書けたら本望だ」と思う作品を挙げるとすれば、「坂の上の雲」だろうか。いずれにせよああいう大河的な作品を、僕はきっと昔から、一冊書きたい、そう思い続けていたのだろう。
そうそう、自分が書く書かないではなく、読者として読むという視点から考えるとするならば、「レ・ミゼラブル」や「坂の上の雲」はもちろんそうだけども、稲垣足穂の「一千一秒物語」もはずせない。あとは、夏目漱石の「草枕」とか、ジョン・アーヴィングの「熊を放つ」とか、僕を嫉妬させてやまない小説は、古今東西いろいろあるなぁ。まあ、あたりまえか。
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