昼ビールに宝塚記念

 昼に飲むビールと昼に入る風呂がともに最高に心地よいのは、どこかに根本的な共通点があるからにちがいない。
「いわゆる背徳ってヤツですかね」。次のレースの馬券検討で競馬新聞の馬柱を覗き込みながら、吉さんが言う。
「いや、むしろ逆だと思うんだよね、オレは。従徳? 則徳? そんな言葉があるのかどうかも知らんのだけどね」
「順徳って言葉はありますね」と吉さん。「そういう天皇もいましたっけ」
 いたいた。ああ、世界一デカい墓を造らせた仁徳ってのもいたな。文徳、称徳、懿徳……いやあ天皇はさすがに徳が高いですな。おっと聖徳太子も忘れちゃいかん。
「まあ、難しいことはオレにはわからんが」次のレースは9番の栗毛馬でいこう。5分ほど前に買ったばかりのハイネケンの生がもう残り4分の1になっているのを、グイッと飲み干した。「とにかく昼のビールは、徳に従い徳に則っているわけだ。だからこんなに気持ちがいい。昼風呂もきっとそうだろう」
 馬券が当たろうが当たるまいが(大抵は後者)、昼ビールは、笑顔になる。夜もうまいが昼のビールは夜の5倍も10倍もうまいにちがいない。9番撤回、このレースは5番と10番の連複で。これで9番がくれば、人生だ。もちろん5番10番がきても、人生だ。1点、500円のみ。我ながら堅実である。
「競馬場に、昼ビール飲みながらつかれる風呂があったら最高っすね」
「それは、ゼイタクが揃いすぎてかえって調和を壊すってやつだな。二つまでに限る。今は競馬場で、昼ビール。あしたは昼ビールと昼風呂。あさっては競馬場と……」
「1着10番、2着9番ですよ、“徳”馬券でしたね。当たりました」。ハズレた。オレにはやっぱり徳がない。
 
 今週末は、宝塚記念サイレンススズカ初の(そして唯一の)GI勝利から早10年である。
 上半期の締めくくりのレースだから、上半期全般に目を向けて考えてみよう。ことし前半は何があったっけかな、秋葉原四川大地震宮崎勤……って最近のことしか思い浮かばん。
 ことしは、良くも悪くも中国か。うん、中国は徳を尊ぶ国だ。ならばこちらも10−9で? 9番エイシンデピュティはともかく、10番ドリームパスポートはどうなんだ。でも実は気になってるのは5番サクラメガワンダー。今回のメンバーで、阪神芝でいちばん多く勝っているのはこの馬。3・0・0・2と、勝つか負けるかわかりやすいのがいい。まあ、当たるものなら当てたいけれども、当たらなくてもいいかと思う、上半期の締めくくり、グランプリレース・宝塚記念。ことしの僕の夢は……なんにしよう。
 
 (15:20)