信濃川の音

 津南(つなん)町の田中温泉「しなの荘」に泊まっている。周囲にぼつぼつと民家はあるが、宿はここだけ。その意味では一軒宿でもある。それほど大きくはなく、どちらかといえば質素な宿だ。
 津南町は、ことしはとくにニュースで盛んに報じられたから有名だけれど、日本一の豪雪地帯である。位置的には新潟県の最南端あたりで、「しなの荘」の最寄り駅である越後田中の2個隣はもう長野県だ。
 とにかく雪の量はすさまじい。先の大雪がまだ残り、僕の身長の倍ほどもある高い雪の壁に、道も建物も囲まれている。ニュースで連日騒がれた、いちばんすごかった積雪4mレベルの頃からはいくらか減り、いまは3m20前後。たしかに積もった雪を見ていると、往時にくらべてとけて減っていることはわかる。それでも物すごい圧倒的な量なんだが。
 ここへくる前、津南の駅近くの酒屋に入って地酒と地ビールを買った。酒屋のおばちゃんとけっこう長い時間お話をしたが、おばちゃんもさすがにことしの雪はすごかったと言っていた。「このあたりの人は3m50、60くらいの雪なら慣れてるけど、4mは大変だったねぇ」と明るく言い放つおばちゃん。いやいや、ことしの4mがいつもよりすごかったのはよくわかるけど、いつもの3m50、60なら慣れてるっていうのもすごい。さすがは日本一の豪雪地帯だと感心した。
 「しなの荘」に話を戻そう。
 きのう午後4時前に宿に着き、通された部屋は「松」。角部屋で三方に窓がある。おそらくこの宿でいちばんいい部屋だろう。窓からは、すぐそこに信濃川が流れている。いうまでもなく日本最長の川だ。新潟市日本海へそそぐ頃には大河の様を呈する信濃川も、千曲川から名前をかえたばかりのこのあたりでは川幅がまだまだ狭く、流れも早い。急流といっていい趣で、その流れの音たるや、夜はうるさいほど。まるで豪雨が降っているときのようだ。ここ最近の雪どけで川の水量が増えているせいもあるかもしれない。
 温泉は24時間入れる。42度の源泉で、露天風呂もある。きょうはすいていて、客は僕ら以外に一組しかいない。だから風呂も貸し切り状態みたいなものだ。
 露天風呂からは、やはり信濃川が流れるうるさいほどの音がすぐそこに聞こえる。いい情緒だ。きのうの到着後、まだ明るいうちに風呂に入った。実に気持ちがよかった。風呂から上がってしばらくくつろぎ、夕食。“割烹旅館”を名乗るだけあって、料理はどれもなかなかおいしかった。作ってから時間がたって冷めた品が出されることもなく、好感の持てる料理だった。
 夕食のあとは、ひと休みして夜中にまた風呂へ。外はそれほど寒くないから露天風呂もほんと気持ちいい。旅館随一の信濃川に面した角部屋と、ゆったりできる24時間の風呂、レベルの高い食事で、1人10000円強。リーズナブルでもあるし、素直にいい宿だと感じた。
 
 テレビではトリノ五輪の閉会式が放送されている。終わっちゃうのか。あ、荒川さんが肩車されて入場してきた。ミキティの笑顔も見える。岡崎さんや皆川くん、スルツカヤもいる。ステキな光景だなぁ。
 おっと、5時。朝食は8時からでお願いしている。もう3時間しかないか。そろそろ寝よう。
 
 
 津南町で雪の壁を見上げる、同行のとき氏=26日夕刻撮影
 
 (4:59)