離島の夢

 日本最南端の高校、石垣島にある八重山商工が秋の九州大会で準優勝となり、来春のセンバツ甲子園出場をほぼ確実にした。
 離島の高校の甲子園出場は2003年春の隠岐高校(島根)以来2校目となるが、隠岐はいわゆる“21世紀枠”での出場だったので、実力で甲子園を勝ち取った離島の高校としては今回の八重山商工が初めてとなる。
 
 飛行機が着陸する前の地上の景色というのは、いつでもどこでもドキドキワクワクする。それは海や山だけでなく、何度見たか数えきれない東京の景色であっても、やはりいいものだ。
 那覇からの小さな飛行機が与論空港に降りる寸前の海の色はすばらしい。機内からもしばしば嘆声やどよめきが上がる。ただ、リーフに囲まれた島というものは普通、島の周辺にあるリーフを横切って着陸するものだから、ヨロンの場合もあのエメラルドグリーンの美しい海を見ていられる時間はそれほど長くない。
 ところが、いくつもの島の間に雄大なラグーンが広がっているようなところであれば、島に接近してから着陸までの比較的長い時間、美しい海の姿を楽しむことができる。その意味でいままでいちばん感動した着陸前の光景は、石垣島の空港だった。
 石垣島八重山諸島のひとつである。八重山諸島というのは、石垣島西表島のふたつの大きな島と、その両島の間に広がる世界有数のラグーン(石西礁湖)に囲まれた竹富島小浜島・黒島・新城島、さらに鳩間島波照間島与那国島などからなる列島である。沖縄県とはいえ沖縄島(沖縄本島)からは400km以上も離れており、むしろ台湾のほうが近い。誤解を恐れずにいえば、ここは沖縄県ではあるけれど、あくまでも“八重山”(ヤイマ)であって、“沖縄”(ウチナー)ではない。その証拠に、ここはかつて琉球王府=沖縄に支配される土地であった。八重山には、那覇など沖縄島に行くことを「沖縄に行く」と言う人がいる。
 話がそれたが、那覇からの飛行機が石垣島の南西を回って空港に着陸する直前、この雄大なラグーンとそれを包み込むリーフの上空を低空で旋回していく。単に横切るのではなく旋回しているから、けっこう長い時間、眼下に広がる言葉では表しきれないほどの海の姿を眺めていられる。
 そして、着陸し、飛行機から表に出ると、陽射しという表現が実にしっくりくるような熱帯の太陽の光が肌と視界を射してくる。
 あの海と、あの光の島から、春まだ浅い甲子園に、球児たちがやってくるのだ。……そう考えただけで、石垣島とは地縁も血縁も何もない僕でさえ、いまからココロがドキドキワクワクと躍ってくる。
 直前に出場が決まる夏の選手権と違って、春の選抜は何ヵ月も前に出場が確定する*1八重山商工の生徒たち、そして八重山の人々は、石垣空港に着陸する飛行機が美しいラグーンの上を長い時間旋回するように、正月を越えて来年春までの長い間、甲子園出場の喜びと離島の夢を楽しみつづけることだろう。
 
 来春。僕も甲子園に行きたいぞ、八重山商工を応援に。
 
 (3:15)
 
 

*1:もちろんまだ本決まりではないけれど、何かトラブルが起きない限り、九州大会準優勝というこの成績は出場を保証するものといっていいだろう