「ここにしか咲かない花」

 人口50人程度の島に、島の人口と同じくらいのスタッフや出演者がやってきて長期間のロケ。いくら日頃はお目にかかれない有名人に会えるといっても、普通に考えれば島にはかなりの迷惑がかかって、その嵐が去ったあとにはドラマのテーマ曲なんてとくに聴きたくもないのだろうと思っていたら、そうでもなかったのがちょっと驚きだった。
 宿のおばちゃんや娘さんは僕がいるときにもこの歌を口ずさんだり、CDをかけたりしていた。おばちゃんは「いい曲だねぇ。歌詞は難しいけど」と言っていたし、この曲にまつわる話や、コブクロが島の学校にギターを寄贈した話、さらには竹野内豊と写真を撮った話(笑)などをうれしそうにしてくれた。那覇から手伝いにきている娘さんも、豪雨で一歩も外に出られなかった3日目の午後(客が僕一人しかいなかった日)、この曲のCDを繰り返し繰り返し流していた。食堂のほうから聞こえるその音に合わせて、僕は雨戸が半分閉じられて薄暗い廊下で口笛を吹いていた。
 民宿まるだいは「瑠璃の島」の主人公・瑠璃の“家”として頻繁に画面に登場したところ。ドラマを見ていた人なら、写真を見せれば一発でわかるだろう。ここの庭では緒形拳倍賞美津子竹野内豊小西真奈美や、まあそういった出演者たちが撮影のあとに集って酒盛りなんかもしたみたいだから、宿の人にとっては思い入れが格別というところはあるだろう。けれどこの宿だけではなく、島で知り合った別の人が泊まった民宿でも、やはり「ここにしか咲かない花」をエンドレスで流していたようだ。その風情は、あくまでも自分たちが歌いたくて歌い、聴きたくて聴いていた感じ。けっして客へのサービスとか、そういうことではない。
 もちろん、島のすべての人がもろ手を上げて歓迎していたわけでもないだろう。いつもは静かな島が突如としてにぎやかに……というより、豊年祭や音楽祭が開かれるときのにぎやかさではなく、撮影という一種異様な雰囲気になったわけで、いつも通る道が立ち入り禁止になるなど不便なこともたくさんあったようだ。島に5軒ある民宿は出演者やスタッフが分泊していたからドラマに対する思い入れはあったとしても、島の一般の人々にとっては相当な不自由があったはず。前にも書いたように僕が到着したのはドラマの一行が島を去った翌日だが、実際に何人かの島の人は、「ほんと、静かになったねぇ」と、島の日常が戻ってきたことに心からほっとしているようだった。
 だから、あの島のみんながこの曲を気に入り、聴いているのかはわからない。もっと大きな事情として、島の平均年齢が高く、琉球の旋律とは懸け離れたポップスのメロディになじめるのかという問題もある。とはいえたしかにそこには、この曲が好きで、聴いたり歌ったりしている人がいる。それはやはり、ドラマのロケがある種のいい想い出を残したのだろうということと同時に、この曲自体が魅力を持っていることの証しでもある。
 宿のすぐ下の家に住む里子の3人の男の子たちも、この曲を大きな声で歌っていた。コブクロが贈ったギターなのだろうか、まだうまく弾けず適当にかき鳴らす音とともに、耳に深く残っている。 <コブクロここにしか咲かない花」/2005年>
 
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